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名古屋地方裁判所 平成元年(ワ)3814号 判決 1991年3月26日

原告 愛知県信用保証協会

右代表者理事 篠塚行夫

右訴訟代理人弁護士 鈴木匡

同 大場民男

同 吉田徹

同 鈴木雅雄

同 中村貴之

被告 柴田守

右訴訟代理人弁護士 北村利弥

同 戸田喬康

同 柘植直也

主文

一、被告は、原告に対し、金八五一万二〇八〇円及び内金八三一万八六一二円に対する昭和六三年六月一五日から支払済みに至るまで年一四・六パーセントの割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

三、この判決第一項は、仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

主文同旨

二、請求の趣旨に対する答弁

1. 原告の請求を棄却する。

2. 訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1. 原告は、中小企業者が銀行その他の金融機関から資金の貸付、手形の割引または給付をうけることにより金融機関に対して負担する債務の保証をすることを業務とする(信用保証協会法二〇条一項一号)。

2. 原告の訴外徳乃建設株式会社に対する求償債権

(一)  訴外徳乃建設株式会社(以下「訴外会社」という)は、株式会社名古屋銀行(旧商号株式会社名古屋相互銀行、半田支店扱、以下「訴外銀行」という)から金銭を借り入れるについて、昭和六一年三月二二日、次の約定で原告に信用保証を委託した(以下「本件信用保証委託契約」という)。

(1) 訴外会社が訴外銀行に対する借入金債務の全部又は一部の履行をしなかったときは、原告は、訴外会社に対し通知催告なくして、残元本債務並びに利息を代位弁済できる。

(2) 原告が代位弁済をしたときは、訴外会社は、原告に対し、代位弁済金全額及びこれに対する代位弁済の日の翌日から年一四・六パーセントの割合による遅延損害金を支払う。

(二)  原告は、前同日、訴外会社の訴外銀行に対する借入金債務の保証をした。

(三)  訴外銀行は、昭和六一年三月三一日、訴外会社に対し元本一〇〇〇万円を利率年七・七五パーセントで手形貸付をし、その後右手形は支払期日を同年七月一一日とする同年六月一一日振出の額面一〇〇〇万円の約束手形に書き換えられた(右手形貸付による債務を、以下「本件借入金債務」という)。

(四)  訴外会社は、本件借入金債務一〇〇〇万円及びその利息二九万〇八九〇円(合計金一〇二九万〇八九〇円)の支払を履行しなかった。

(五)  そこで、原告は、昭和六三年四月二八日訴外銀行に対し、右(四)の金員を代位弁済した。

(六)  原告は、右代位弁済金に対し同年六月一四日、一九七万二二七八円の弁済を受けた。

(七)  以上より、代位弁済金の残高は八三一万八六一二円であり、昭和六三年四月二九日から同年六月一四日までの約定遅延損害金は、別紙損害金計算書のとおり金一九万三四六八円である(合計八五一万二〇八〇円)。

3. 被告の連帯保証債務

次の(一)ないし(三)のいずれかにより、被告は、原告に対し、前記求償債務の履行を訴外会社と連帯して保証した。

(一)  被告による連帯保証契約の締結

被告は、昭和六一年三月二二日、前記2(一)により訴外会社が原告に対して負担する一切の債務を連帯して保証する旨の契約(以下「本件連帯保証契約」という)を原告との間で締結した。

(二)  訴外柴田和徳による有権代理

訴外柴田和徳(以下「訴外和徳」という)は、昭和六一年三月二二日、被告のためにすることを示して原告との間で本件連帯保証契約を締結し、被告はこれに先立って本件連帯保証についての代理権を訴外和徳に授与した。

(三)  黙示の追認

次の(1)ないし(7)の諸事実によれば、被告は、遅くとも(7)の事実のときまでには、訴外和徳が昭和六一年三月二二日に被告のためにすることを示して原告との間でなした本件連帯保証契約(無権代理行為)を追認する旨の意思表示をした。

(1) 昭和六一年七月一一日、被告は、訴外会社が約束手形の不渡を出したことを知った。

(2) 同月二三日、訴外銀行から被告への通知書(被告に対し、保証契約に基づき、本件借入金債務の履行を催告する旨の内容)が被告のもとへ到達し、被告は、日を余りおくことなく、これを被告代理人の戸田弁護士(以下「戸田弁護士」という)のもとへ持参した。

(3) 同年八月一六日、被告は、原告の金山支所を訪問し、訴外会社の借入債務の残金を照会した。

(4) 被告は、前記(3)の原告の金山支所訪問の際、本件連帯保証債務を自認していた。

(5) 被告は、昭和六三年四月末ころ訴外銀行から送られた代位弁済による債権移転通知書(本件借入金債権を含む)を受領しながら、これにつき何ら異議を述べなかった。

(6) その後、被告は、訴外銀行から、右銀行が原告から代位弁済を受けられなかった遅延損害金の残金を含む債権による仮差押を受けながら、これに対し何ら異議を述べなかった。

(7) その後、被告は、訴外銀行との間で、前記(6)の仮差押の被保全権利である債権に関して、割賦弁済をする旨の念書を取り交した。

4. よって、原告は、被告に対し、原告の訴外会社に対する求償債権についての保証債権に基づき、前記八五一万二〇八〇円及び内金八三一万八六一二円に対する内入弁済の日の翌日である昭和六三年六月一五日から支払済みに至るまで年一四・六パーセントの割合による約定遅延損害金の支払を求める。

二、請求原因に対する認否

1. 請求原因1は認める。

2. 請求原因2のうち、(六)は認め、その余は知らない。

3. 請求原因3のうち、(三)の(1)ないし(3)及び(5)ないし(7)の各事実は認め、その余は否認する。

被告が昭和六一年八月一六日原告の金山支所を訪問したのは、訴外会社が原告又は訴外銀行に対して負担する債務の明細を確認し、契約書等の写の交付を受ける目的であったにすぎない。また、被告が訴外銀行との間で念書を作成するに至った理由は、訴外銀行から強く要求されたことと、被告が仮差押制度を誤解し、仮差押を受けた以上もはや法律上争う手段がないものと理解したことに尽きるのである。

第三、証拠<省略>

理由

一、請求原因について

1. 請求原因1、同2の(六)、同3の(三)の(1)ないし(3)及び(5)ないし(7)の各事実については、いずれも当事者間に争いがない。

2. 請求原因2(求償債権)について

当事者間に争いのない事実、<証拠>を総合すれば、請求原因2の事実が認められる。

3. 請求原因3の(三)(被告の連帯保証債務―黙示の追認)について

(一)  当事者間に争いのない事実、<証拠>を総合すれば、次の各事実が認められる。

(1)  訴外和徳は、昭和五九年一二月二七日、被告宅から被告の実印を勝手に持ち出して、被告に無断で、原告の訴外銀行に対する借入金債務について連帯保証する旨の甲第三号証の保証約定書の被告の住所、氏名欄の記載及び名下の捺印をし、また、昭和六一年三月二二日、同様にして、被告に無断で本件連帯保証契約書の被告の住所、氏名欄の記載及び名下の捺印をした。

(2)  昭和六一年七月一一日、訴外会社が約束手形の不渡を出し、これを知った被告は、同日、訴外和徳とともに、戸田弁護士の事務所を訪ねた。

(3)  同月二三日、訴外銀行からの通知書が被告のもとへ到達し、被告は、日を余りおくことなく、これを戸田弁護士のもとへ持参した。

(4)  同年八月一六日、被告は、原告の金山支所を訪問し、訴外会社の借入債務の残金を照会した。被告の右訪問に先立ち、原告が、被告や訴外和徳に対して呼び出しをしたことはなかった。

(5)  被告は、昭和六三年四月末ころ、訴外銀行から送られた代位弁済による債権移転通知書を受領し、その後これを戸田弁護士に届けて相談はしたものの、これにつき訴外銀行及び原告に対し何ら異議を述べることはなかった。

(6)  被告は、平成元年五月末ころ、訴外銀行による本件借入金債務に関する仮差押(本件借入金債務の遅延損害金の一部を含めた債権を被保全権利とする)を受けたことを知り、その後仮差押決定書のコピーを戸田弁護士に届けて相談したが、これにつき訴外銀行に対し何ら異議を述べなかった。

(7)  被告は、平成二年四月二〇日ころ、訴外銀行との間で前記(6)の仮差押の被保全権利である債権(本件借入金債務の遅延損害金の一部)について、割賦弁済をする旨の念書(同年二月二八日付)に署名捺印した。

(二)  以上の(1)ないし(7)の各事実を総合すると、被告は、当初、訴外会社に対する本件借入金債務の保証及び本件連帯保証契約につき了承していなかったところ、前記訴外銀行からの通知書を受け取ったことによって本件連帯保証のことを知り、これを契機として原告の金山支所を訪問したものと推認され、また、右訪問ののち本件訴訟の提起に至るまでの間に被告は一度も訴外銀行及び原告に対し異議を述べたことはなく、のみならず訴外銀行との間で本件借入金債務の遅延損害金の一部について割賦弁済をする旨の念書に署名捺印したものであり、しかも、本件借入金債務に起因する法律問題については訴外会社の約束手形の不渡発生以来何度も戸田弁護士に相談していたのであるから、以上により、被告は、遅くとも右念書に署名捺印した平成二年四月二〇日ころまでには、訴外銀行に対し、訴外和徳が被告のためにすることを示して原告との間でなした本件連帯保証契約(無権代理行為)を追認する旨の意思表示をしたものと認められる(なお、その後原告が右事実を知ったことは、弁論の全趣旨より明らかである)。

(三)  これに対し、被告本人は、金山支所訪問は、突然失そうした訴外和徳に代わって、訴外会社や訴外和徳の破産申立の準備をすすめるべくこれに必要な借入金債務額を聞くために行ったのであり、原告からは本件連帯保証のことは何も聞いておらず、訴外和徳らの債務額については本人にしか教えられないと言われて聞けなかったのであること、前記通知書及び債権移転通知書を受け取りながら放置したのは、いずれ法的に請求がくるからそのとき主張すれば良いと思ったからであること、前記仮差押に対し異議を述べなかったのは仮差押で決まったことはもはや争えないものと誤解したからであること、前記念書についても、仮差押決定はもはや争い得ないとの誤解や勤め先に迷惑をかけたくないとの気持ちに基づくものであるし、そもそも念書の対象となった債務と本件連帯保証債務と同一であるとは思っていなかったのであること、という旨の供述をしている。

しかし、被告は、訴外銀行から送られた通知書を戸田弁護士のもとへ持参して相談した結果、右通知書の「愛知県信用保証協会保証扱」との記載を手掛りにして、原告の金山支所を訪問することになったとの経緯(被告本人第二回)に照らせば、被告は、右通知書の到達により、自分が訴外会社及び原告に対する関係で連帯保証人にされていることを知って右訪問もこれを契機としてなされたものと推認するのが相当であり、被告の金山支所への訪問が本件連帯保証と全く無関係の動機により行われたものであるとは認めにくいこと、前記通知書及び債権移転通知書を受領した後も異議を述べなかったことについて合理的な説明がなされているとは認めにくいこと、被告は、本件借入金債務に起因する諸々の法律問題について何度も戸田弁護士に相談していたことに加えて、前記念書には、被告が主債務者である訴外会社の借入のために連帯保証した債務についての取り決めであることが明示されていること、の諸点に照らすと、被告本人の右供述は措信できない。

他に前記認定を覆すに足る証拠もない。

(四)  したがって、被告は、遅くとも右念書に署名捺印した平成二年四月二〇日ころまでには、訴外和徳が被告のためにすることを示して原告との間でなした本件連帯保証契約(無権代理行為)を追認する旨の意思表示(黙示の追認)をしたものであり、請求原因3の(三)の事実が認められる。

二、結論

以上によれば、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 芝田俊文)

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